犬のブラシの種類と使い分け|目的別に選ぶ道具図鑑
ペットショップのブラシ売り場に立って、途方に暮れた経験はありませんか。四角い面に細い針が並んだもの、丸い先端のピンが植わったもの、シリコンのイボがついたもの、櫛のような金属のもの……。どれもそれらしく見えるのに、パッケージには「ブラッシング用」としか書かれていない。結局いちばん大きなものを買って、うまく使えないまま引き出しにしまってある、という方も少なくないと思います。
この記事では、代表的なブラシを「何のための道具か」「体のどこに当てるか」という視点で一つずつ整理し、毛質別に最低限そろえたい2本、そして道具の洗い方と買い替えの目安までをまとめます。
前提|ブラシに「万能な1本」はありません
はじめにお伝えしておきたいのは、すべての目的をこなせる1本は存在しないということです。理由はシンプルで、ブラッシングという作業の中に、まったく違う目的が混ざっているからです。
- 絡みをほどく(毛がからまって面になりかけている部分をほぐす)
- 抜けた毛を取り出す(下毛が抜けて被毛の中に溜まっている状態を外に出す)
- 毛の流れを整える(表面をなでて落ち着かせる、ツヤを出す)
- 確認する(毛の奥に毛玉が残っていないかを最後にチェックする)
この4つは、必要な「歯の硬さ」も「歯の間隔」もまったく違います。だからブラシは何種類も存在するのです。逆に言えば、目的が2つに絞れる子なら、道具も2本で足ります。高いものを1本買うより、役割の違う2本を持つほうが実用的です。
道具図鑑①|ほどく・取り出すための2種
スリッカーブラシ
四角い面に細く曲がった金属の針が並んだブラシです。もっとも「効く」道具で、絡みをほどく・抜けた毛を取り出す、どちらにも使えます。ただし効くということは、扱いを誤れば皮膚に負担がかかるということでもあります。
当てる部位は、毛が長い・密度が高い場所。耳のうしろ、わきの下、内もも、おしりまわりなど、毛玉ができやすい部分です。コツは寝かせて使うこと。ブラシの面を皮膚に垂直に押しつけると針先が刺さりやすく、毛を上からなでるように角度を寝かせると負担が減ります。力ではなく、少しずつ範囲を区切って何度も通すイメージです。
ラバーブラシ(ゴム・シリコン製)
ゴムのイボがついたブラシで、短毛の子の抜け毛を集めるのに向いています。金属の歯がないため、皮膚に当たる感触がやわらかく、ブラシを怖がる子の「最初の1本」にもなります。シャンプー中に使えるタイプもあります。
当てる部位は、背中・脇腹・おしりなど、面積の広い場所。抜けた毛がイボに絡んで集まってくるので、短毛種の換毛期にはとても実用的です。一方で、長毛の子の絡みをほどく力はほとんどありません。
道具図鑑②|整える・確認するための3種
ピンブラシ
クッション性のある土台に、先が丸いピンが植わったブラシです。スリッカーより当たりがやわらかく、長めの毛をなでて整えるのが得意です。全身をざっと通して毛の流れをそろえたいとき、ふわっと仕上げたいときに向きます。
ただし、できてしまった毛玉をほどく力は弱めです。ピンブラシだけで済ませていると、表面はきれいなのに根元で絡んでいる、という状態になりやすいので注意してください。
獣毛ブラシ(豚毛・猪毛など)
動物の毛を束ねたブラシで、目的は毛の表面を整えること、ホコリを払うことです。静電気が起きにくいとされ、冬場に毛が広がる子の仕上げに使われます。抜け毛を取る道具ではないので、換毛期の主役にはなりません。短毛の子の日常の一拭き、長毛の子の最後の仕上げ、という位置づけです。
コーム(櫛)
金属製の櫛で、片側が目の細かい列、反対側が粗い列になっているものが一般的です。役割は最終確認。ブラッシングのあとにコームを通し、途中で引っかからず根元まですっと抜ければ、毛玉は残っていないと判断できます。
当てる部位は全身ですが、特に顔まわり、耳、足先など細かい場所で活躍します。目のまわりを扱うときは、必ず毛の流れに沿って、先端を皮膚に向けないように動かしてください。
アンダーコート用ブラシ(下毛をかき出すタイプ)
柴犬やコーギーなど、上毛と下毛の二層構造を持つ子の換毛期に使われる道具です。刃状・くし状の歯で、抜けて溜まっている下毛をかき出します。よく抜けるので気持ちよく感じますが、同じ場所を何度も往復すると必要な毛まで削ってしまうことがあります。一か所につき数回で切り上げ、全身をまわす使い方が安全です。抜け毛が少ないシングルコートの子には基本的に不要です。
毛質別|最低限そろえる「2本」の組み合わせ
買い揃えに迷ったら、次の考え方が実用的です。
長毛・カットが必要なタイプ(トイプードル、ヨークシャーテリアなど毛が伸び続ける子) → スリッカーブラシ+コーム。ほどく道具と、確認する道具の組み合わせです。ピンブラシは3本目として、余裕があれば。
ダブルコートの短毛〜中毛(柴犬、コーギーなど) → スリッカーブラシ(またはアンダーコート用)+ラバーブラシ。抜け毛を取り出す力のある道具と、仕上げに毛を集める道具です。
短毛・シングルコート(スムースチワワ、パグなど) → ラバーブラシ+獣毛ブラシ。金属の歯は基本的に必要ありません。
サイズ選びも大切です。大きい面のほうが早く終わりそうに思えますが、小型犬の顔まわりや足先には入りません。体の小さい子は、道具も小さめが基本です。
ブラシの洗い方と、買い替えの目安
道具の手入れは見落とされがちですが、毛や皮脂が詰まったブラシは毛をとらえる力が落ち、同じ回数をかけても効果が下がります。
- 毎回:溜まった毛を指やコームの先で取り除く
- ときどき:ぬるま湯に薄めた犬用シャンプーで振り洗いし、よくすすぐ
- 必ず:土台(クッション部分)を下に向けて陰干しし、完全に乾いてからしまう
クッション台のスリッカーやピンブラシは、内部に水が入ると乾きにくいため、水に長時間つけ込まないほうが安心です。獣毛ブラシも同様に、根元に水を含ませすぎない扱いが向きます。
買い替えを考えたいサインは次のような状態です。
- 針やピンが曲がっている・先端の保護球が取れている(皮膚に当たりやすくなります)
- クッションの反発がなくなり、押すと沈んだまま戻らない
- コームの歯がゆがんでいる・欠けている
- ラバーのイボが硬くなり、抜け毛が絡まなくなった
道具の状態が悪いと、飼い主さんは無意識に力を強めてしまいます。そのうちに犬が痛い記憶を覚えてしまうこともあるため、「効かなくなったな」と感じたタイミングは、実は買い替えの合図です。
なお、ブラッシングのあとに皮膚が赤くなる、同じ場所を気にして掻き続ける、フケが目立つといった様子が続く場合は、道具や力加減の問題だけではない可能性もあります。自己判断で続けず、気になる場合は動物病院にご相談ください。
まとめ|「1本を極める」より「役割を分ける」
ブラシ選びでつまずくのは、1本で全部やろうとしているからです。ほどく道具、取り出す道具、整える道具、確認する道具——役割を分けて考えると、わが子に必要なものは2本程度に絞れます。
それでも、「この子の毛質だとどれが合うのか分からない」という迷いは残るものです。当店GROOM HAUSでも、施術のあとにご自宅で使っている道具や当て方をうかがいながら、お話ししています。サロンで使っている道具を見せてもらう、当て方を一度見せてもらう、というだけでも家でのブラッシングはずいぶん楽になります。メニューや初めてのご利用についてはメニューのご案内とはじめての方へもご覧ください。
道具は、愛犬の体に直接触れるものです。高いものを選ぶ必要はありませんが、目的に合っていて、きれいで、状態のよいものを使う。それが、いちばん負担の少ないブラッシングにつながります。
この記事は一般的な情報をまとめたものです。愛犬の体調や皮膚の状態で気になることがある場合は、自己判断せず動物病院にご相談ください。
